昼下がりの淀川区の片隅にその店はひっそりと佇んでいた。 暖簾には大きく「お食事処」とだけ書かれている。 どこかの時代に取り残されたような風情を漂わせている。 外からのぞくと、年季の入った木の扉が出迎えてくれる。 そこにたどり着いたのは偶然だっ…
地方の小さな駅に足を運ぶと、どこか時間が止まったような感覚に包まれる。 駅に人影はなく、静かな風景が広がる。 改札には「ピッ」とするICカードの端末さえなく、今では珍しい光景だ。 その駅には、ひときわ目を引くガラスケースがあった。 中に飾られて…
フェールラーベンの「Vidda Pro Ventilated Trousers」は、アウトドアで生き残るためのアーマ-だ。 無骨でありながら、計算された機能美がその存在感を強調する。 自然の中で過酷な環境に立ち向かうためのギアだ。 初めてその質感を触った瞬間、直感的に感…
古びた釣具箱の奥から、40年の時を経て再び姿を現したのは、かつて「Diamond」と呼ばれたリールだった。 このスピニングリール、見覚えのある者は少ないだろう。 私が小学生の頃から使い続けていたものだ。 月日が経ち、釣り場も変わり、私自身も変わったが…
梅田の街に息子と二人、釣具店を目指して歩き始めた。 目的は、欲しいルアーを手に入れることだったが、実際には息子を外に連れ出すことが本当の狙いだった。 9月6日にオープンしたばかりのうめきた広場に差し掛かると、新しい広場の賑わいと、ビル群の隙間…
今年の春から、何かが違う。 ウグイスの鳴き声がほとんど聞こえない。 あの特徴的な囀りが、朝の静けさを破ることが少なくなった。 カブトムシも見かけることが少ない。 ひぐらしの鳴き声が薄れ、夏の終わりを告げる風物詩が消えつつある。 そして、タヌキさ…
それはある朝、胸と背中が燃えるように痛み出したことから始まった。 まるで長年煙たがっていた過去の記憶が、突然刃を向けてきたかのような衝撃だ。 とりあえず内科へ向かったが、そこでは心臓の異常は見当たらなかった。 「お前の心臓はまだ生きている」 …