四十年前、小学五年生のガキだった俺は、擦り切れたポケットに大事に突っ込んでいたお年玉を握りしめ、ある決断を下した。
子供にしては大金だったその金で何を買うか、ずっと迷っていたが、最終的に選んだのがこのダイワ精工のファントムだった。
あの頃、釣りの知識なんてほとんどなかったが、これを手にした瞬間、何かが変わる予感がした。
黒光りするボディに刻まれた「HI-SPEED」の文字が、ただのリールではないことを物語っていた。
ファントムという名前もまた、無敵の武器を手にしたような気持ちにさせた。
だが、正直言って、このリールを手に入れるための出費は、当時の自分にとっては相当なものだった。
迷い、葛藤し、何度も店の前を行き来した末に、ようやく決断した。
手に入れた瞬間、胸が高鳴り、もう一度後戻りすることはなかった。
あれから四十年。。。
時代は変わり、釣り具も進化を遂げた。
最新のリールと比べれば、性能は圧倒的に劣る。
巻き心地、重量、精度――どれを取っても今のモデルには敵わない。
それでも、このファントムは現役であり続けている。
理由はただ一つ。
俺がこいつを手にしたあの日の決断が、今でも色褪せることなく心に刻まれているからだ。
時間が経っても色褪せない記憶と共に、このリールを手にするたびに、あの頃のガキだった自分を思い出す。
世間知らずの小僧が、大金を握りしめて選んだ一品。
それは、単なるリールではなく、俺にとっての成長の証でもある。
そして、その証は、これからも現役として、俺の手にしっかりと握られ続けるだろう。