冷えたコンクリートの階段を一歩一歩踏みしめる。
スタジアムの歓声が耳を刺し、無数の人々が歓喜に沸き立つ。
それを、息子が静かに見つめている。
引きこもっていた息子が、今日ここにいる。
それだけで、俺の胸の奥に何か重いものが動いた気がした。
静寂に閉ざされた部屋で、彼はどれだけの時間を過ごしてきただろう。
外の世界なんて、まるで自分とは無関係だと、そう思っていたかもしれない。
それが、どうしてか変わり始めた。
気まぐれか、運命か、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、彼が外へ出て、また一歩を踏み出したという事実だ。
息子の目がピッチの向こうに向けられている。
まるで何かを探し求めるように、彼の瞳は鋭さを帯びている。
ここにはもう、部屋にこもっていた頃の彼はいない。
外の世界が彼をどう変えるかは、誰にも分からないが、少なくとも今、この瞬間は違っている。
俺は、これまでずっと見てきた。
何も言わず、ただ見守ってきた。
時には焦り、時には苛立ちさえ覚えた。
だが今は、静かに時が流れるのを待っている。
彼がこの世界に再び溶け込むまでのその瞬間を。
息子は変わり始めたのだ。
何かが、確実に動いている。
息子の肩が微かに動く。
歓声に反応したのだろうか、それとも自分自身の中で何かが引っかかったのか。
分からないが、その微かな動きは、確かに新しい何かの始まりを告げている気がする。
今こそ、俺はしっかりと見守るべきだ。この瞬間を逃さずに、彼の変化を見逃さないように。
外は冷たい風が吹き抜け、サッカーボールが空高く弾む。
スタジアムの熱気に包まれながら、俺たちは少しずつ、また違う場所へ進んでいる。
息子の未来がどこへ向かうのか、それを知るのはまだ先だが、俺は確信している。
この瞬間が、俺たちにとって大事なターニングポイントになることを。
俺は、ただ彼の後ろを歩くだけだ。
静かに、しかし決して見逃さないように、彼がどこへ進んでいくのかを見守り続ける。